第三十六話「水風船バンバン」
私が黄色い水風船をバンバンしていると、それを見たタニシ様が勢いよく近寄って来て「自分にも貸せ」とねだる。私はまだ楽しみたかったんですが、タニシ様があまりにしつこいので渋々貸してあげました。

タニシ様は、しばらく水風船をバンバンして遊んでいたのだけど、勢い余って、その水風船を隣の家の庭に放り込んでしまいました。ぴゅーっと飛んでった先には盆栽があり、水風船はその枝の形を矯正する為に巻きつけてある、鈍く光る針金にぶち当たってあっけなく割れた。
黄色い球体は弾けて消え、消失する瞬間に小さい虹を生みました。
タニシ様は喜びの、私は逆に落胆の声をあげた。
「あー!!!」

夕方にタニシ様がビニール袋を持ってやってきて、それを私に渡しました。
中には温かい焼き鳥が入っていました。
私は「さっきのことは水にながしてやるよ」と言って、仲良く焼き鳥食べた。
外では雨がぱらりぱらりと降っていました。
部屋の中から縁側に落ちた水滴を数えた。

焼き鳥おいしかったから、タニシ様にちょっと優しくしないとな。



第三十七話「雨水の道」
不安定な大気が原因で、近頃、雨がどばーっと降っては止むようなことが多い。
今日も朝から降ったり止んだりしているので、私たちは表へ出てビニール製の傘に雨粒をビタビタと当てて楽しんだ。
遊んでいると、近くで「バシャリ、バシャリ」と水が一定のリズムで落ちてくる場所を見つけた。私たちはもっと大量の雨水を浴びようと、今度はそこへ行ってみた。

よく観察すると、そこは雨どいの流れが悪くなっていて、雨量が多いと水を排出するよりも溜まってしまうスピードの方が早くなり、屋根の上で溜まった雨水が一定間隔で溢れ落ちているようだった。私たちはベチベチっと透明な傘に、溢れ出る雨水の塊を何度も受けて喜んだ。
タニシ様は「きゃー!!」と叫び声をあげて、私は傘をぐるぐる回した。
傘にあたった雨は、遠心力で遠くへ飛び散っていった。

何本もの水路が出来た地面を見ていると、ゆっくりと蝉の死骸が流れてきた。
ここは亡骸を運ぶ土色の河。
蝉であったモノは、たびたび訪れる河が分岐する部分で、必ず引っかかり、上手く流れずに止まってしまうので、まるでどちらに進もうか迷っているように見えた。
きっと途中で魂とは別の道を選んできてしまったのだ。
強風が雨雲をどこかへ押しやって、空に青い色が帰ってくると、あっという間に地面を乾かし、その河も途切れた。
そこで、蝉の亡骸は投げ出され、辿るべき道筋を見失う。
でも、また少しすると、黒い雨雲が風に押されてやってきて、局地的な雨を降らせたので、再び我々は表へでてドンちゃん騒ぎを繰り返した。

夜、日誌の行事の欄に「雨雲祭」と記して、私はページを閉じたのです。




第三十八話「夏の終わりのプール遊び」
今日はタニシ様が水遊びをしたいと言うので、外にビニール製のプールを作ってあげました。プールに水を注いで準備が出来たのに、タニシ様がなかなかプールに入ろうとしないので、理由を聞くと、プールの中を指して「この虫が死んじゃうだろ」と言いました。
見ると、一匹の虫が、普段は木の幹にしがみつくのに使う、鉤状になった前後の足で不器用に泳いでいた。
そこで私達は端の方から慎重に水に入り、静かに遊ぶことにしました。
それでも時間が経つにつれ、次第に楽しくなってきて興奮してしまい、ザブンザブンと水の掛けっこしてしまったので、慌ててさっきの虫を探してみると、ちゃんと生きていたので安心しました。

夕方、近所の子供が「今日は花火大会だよー!」と言っていたので、プールを片付けずに見に行きました。パチパチパチっとしているうちに時が過ぎて、私たちが帰ってきたらプールには二匹のアメンボがいました。
さっきの虫はどこへ行ったんだろう?
ツイーツイーと水面を滑っている彼らの姿はとても優雅でした。




第三十九話へつづく



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